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「困ったなー、誰もいないのかなー?」
どーやら慌てて入った個室の紙が切れてたらしい

無言を貫いてもいいけど
困った男性が下半身丸出しでこちらの
清掃具置き場にトイレットペーパーの予備を
探しに来られても、とても困る

最悪な事にトイレットペーパーの在庫は
この清掃具置き場に余分な程あった

助けずに、ここに取りに来た
下半身スッポンポン男に見つかるか。
あえて助けてやって見つかるか…

下半身スッポンポン男に見つかるより
人を助けて褒められる自分のまま見つかろう…
悟りを開いたような心穏やかな気持ちで
私は無言でトイレットペーパーを一つ
隣に投げてあげた

ポコンと相手の頭に
落下したような気配があったけど
気にしない気にしない

「あ、ありがとうございます!助かります!」
相手はそれを責めず、お礼を言ってきた
(良い心がけです、若者よ)
泉から出た女神様の気分で
先ほど些細な事で
呪ってやった事をちょっと反省した

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扉が清掃具置き場と洋式便器ある部屋同じで
慌てて入る人がいるなら
なかには私がいる清掃具置き場の扉を
間違えて開いてしまう人がいるかもしれない

中から扉を開けられない今の私は
いつ誰かに見つかってもおかしくない
最悪の状況だった

か弱い私でも壊せるかもしれない道具
(ステッキブラシやホウキ)
は一応あるけど大きな音がする事を覚悟して
本気で何回かぶつけないとダメな気もする

音が響き過ぎない程度でそれらも使って
試しては見たけどやっぱりダメで開かない

途方に暮れた私がミグさんに助けを求めようと
スマホを取り出した時

「オラァ!!こっち来いやクソジジイ!!」

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突然、怒鳴りながら入ってくる一団がいて
入ってくるなり私の閉じ込められている
清掃具置き場の扉を
「ドガンッ」と全力で蹴った!

驚きすぎた私はスマホを落として
硬い床で壊すまいと脚で挟み取ろうとして
隣の個室に滑らせてしまった

「あ!」
思わず声に出してしまい
とっさに口を押さえてしゃがみ込む
「…」

「人にぶつかっといて謝罪もなしかい!!
俺は肩関節壊してメッチャイてーんだよ!!
どーしてくれんだ、ゴラァ!!」
怪我人にしては随分元気に
また私のいる清掃具置き場の扉をぶん殴り
誰か不幸なターゲットを脅している

その他、数人がいるみたいで
「マズイよマズイよーw
ケンちゃん怒らせたら顔が原型とどめないくらい
ボコボコにのされるゼw」
「俺も親友、怪我させられといて黙ってられねーよ
こいつシメるなら俺もやるゼ!!」
「オイ立てや!!ブツクサ何いってんだ
なめてんのかコラ!!」
と煽るもの

「ヒイィィッ、スミマセン許してください
ゴメンナサイ!!」と
とにかく謝る気弱なおじさんらしい声が

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私も体がガタガタ震えて怖すぎて動けない。
幸い今の声で気づかれてはいないみたいだけど
もし見つかったら
この乱暴なお兄さん達に何をされるかと思うと
見つからない事を祈る事しかできなかった

とにかくスマホを隣の個室から取り戻さないと
マナーモードにしていると言えど
着信して振動音でもしてしまえば一発アウト
着信しなかったとしても
スマホを見つけられたら隠れたままなのは
絶対に不可能!なんとかしないと!!

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焦る私を無視して扉の外では
今だに親父狩りを続ける人達の喧騒がやまない。
これだけ騒がしいなら
少し程度の音なら気付かれないかも…

震える身体を必死で抑えながら
清掃具の束から一本だけ
他の道具にあたって音をたてないように
慎重に持ち手が細いホウキを取り出す

壁に当たらないように
ゆっくり足元の内壁間の隙間に差し込んで
隣の個室に滑らせてしまったスマホを
手元に引き寄せられないか探ってみた

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シナリオA 悪夢
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「ぶぅぅーん…」
私の動きが一瞬で凍りつく

「ぶぅぅーん…」
聞き間違いじゃない、スマホが振動していた。
しかも振動は一度で止まらず連続する

「ぶぅぅーん…」
扉の外がどれだけ騒がしくても
硬い床の上を直接振動して跳ねる
スマホの音は強く空気を震わせて

悪夢を見ているような背筋がゾワッとする感覚。
(お願いやめて!気付かれる!)

「ぶぅぅーん…」
どれだけ祈っても手を離れ操作できない
私のスマホは
持ち主の意思を無視して振動し続け
まるで母親にかまってもらえず
駄々をこね床を転げまわる拗ねた子供の様に
床を叩き続けた

「ん?なんか音しねぇ?」
気づかないで欲しいと祈る私の願いも虚しく
乱暴そうな男達の一人が気付き
「あぁ???中に誰かいるんかい?」
他の人達も気付き始めた

体を小さくして頭を抱え
(もうダメ!もうダメ!助けて!お父さんお母さん!)
涙を流して男達に見つかった後の未来に絶望し
恐怖する

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「うわぁーーーっやめてくれーーーっ」
いきなり脅されていた気弱なおじさんが
ここぞとばかりに大きく吠えて
スマホの音に気を取られ隙だらけだった
怖いお兄さん達の包囲に体当りして
なんとか外に出ると一目散に逃げていく

「あ!くそ逃げられた!」
せっかく追い詰めて
あと少しで目的も達成できた獲物を
喉首噛み切る直前に逃がしてしまった獣達は
その八つ当たりを今だ音のする方向に向ける

「ドガンッ」
「んだゴラ、邪魔しやがって!!」
イライラを伝えるように力任せに開けられた扉。
だがその奥には
期待した八つ当たりする為の相手が誰もいなくて
リーダー格らしい男はキョトーンとしてしまう。

「あ、あそこ!床にスマホがありますぜ!」
「なんでホウキが床に生えてんだ???」

不自然に隣の個室から伸びるホウキは
明らかに目立って私の居場所を男達に伝え

出鼻をくじかれた男達は
今度はゆっくりと慎重に扉を開ける

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